卒業生インタビュー

平成28年3月発行法学部紹介冊子からの抜粋です。身分・所属等は、とくに断りがない限り、当時のものです。

建林 正彦 たてばやし まさひこ

京都大学 法学部 教授

1965年京都府生まれ、1989年京都大学法学部卒業、1994年カリフォルニア大学サンディエゴ校政治学修士、1996年京都大学大学院法学研究科博士後期課程研究指導認定退学、同年より関西大学法学部専任講師、神戸大学国際協力研究科教授、同志社大学法学部教授を経て、2011年より現職。

著書、編著に、『議員行動の政治経済学』(有斐閣、2004年)、『政党組織の政治学』(東洋経済新報社、2013年)など。

学問する喜びと
出会う

学部時代の自分について語ることは大変難しいことです。というのも当時の私はいわば典型的なモラトリアム学生だったからです。進路を明確に定めて勉学に励む友人や、クラブ活動などに情熱を燃やす友人を横目で見ながら、一所懸命に取り組むものを見出せない自分を情けなく思いつつ、友人たちと遊び回っていたように記憶しています。真面目な友人と一緒に法律系の科目にもいくつか出て見ましたが、面白みを理解することのないままに脱落し、政治系の科目もノートを取りながら熱心に聞いた授業は数える程でした。何かをもっと真剣に学びたいという漠然とした思いはあり、人並みに色々な本も読み漁ってはいましたが、深掘りすべき対象をなかなかうまく見つけることができなかったように思います。

そんな中で少し展望が開け始めたのが3回生の後期から始まったゼミでした。私は村松岐夫先生の行政学演習を選択しましたが、それは広く現代日本政治をカバーするもので、前半に共通する文献を精読した後は、学生が自由に何を発表しても良いというものでした。私の選んだテーマは1980年代の日本における保守主義という、現在の私の研究対象とは異なってやや思想史的なものでした。論文を書いたわけでもなく、今から考えれば稚拙な報告を数回させてもらっただけだったのですが、私はそこで自分の興味関心に基づいて学ぶ喜びを初めて味わったように思います。他の学生の報告やそれに対する先生のつっこみを聞くのも楽しく、様々な座談を通じて先生が何を面白がり、どのような考えに基づいて研究をしておられるのかという、大講義では十分に感じることのできなかった学問の核心の一端に触れることができたように思います。

また同じ時期に友人たちと世界の現実政治について様々に語り合ったことも同時代政治という、その後の研究対象への関心を深めるきっかけになったと思います。今でもよく覚えているのは、法学部の友人4人と3回生の冬に韓国の民主化後初の大統領選挙を見に行った時のことです。結構危ない目にもあいましたが、そこで見た選挙戦の熱狂や、韓国の大学生と一緒に鍋をつつきながら議論したことなどは、今も私が政治現象を捉える際の視点の一部となっていると思います。

こうした経験を経て、私は研究者になれるものならなってみたいと思うようになりました。ただ京大法学部には卒業論文がなく、論文を書いたことのない私は、自分に十分な素養があるのかどうかおおいに不安を覚えましたし、とりあえず修士課程の2年頑張ってみてダメなら別の職を探そうという「強い覚悟」をもって進学を決めたのでした。その後は無事論文も仕上げることができ、留学をし、研究者の職に就くこともできたのですが、今でも時々学部時代にもう少し積極的にあれこれ頑張っていれば、と思うことがあります。他方で、現在の自分を作る上で必要な模索の時間であったかとも思います。

教員になって以来、講義やゼミで心がけていることは、あの頃の自分のような学問や政治に漠然とした興味を抱いている学生に、研究の楽しさを味あわせたいということです。私から見ると今の法学部の学生は、やや真面目すぎるように思います。短期的に何らかの見返りを求め、何かの手段と捉えてしまうと、学問の本来の魅力を見逃してしまいかねません。

京大法学部には今も昔も、社会のあり方について素朴に疑問を持ち、人生や自分と社会との関わりについて悩み葛藤する学生を受け入れるような懐の深さがあると思いますし、そうした自由の伝統を是非活かしてもらいたいと思います。