京都大学法学部で学ぶことの意義
法学部長 洲崎博史

1.はじめに

法学部長の洲崎です。このたび、京都大学法学部・法学研究科ではHPを一新し、関係の皆様方に対してよりわかりやすい形で情報発信を行っていくことになりました。このページでは、京都大学での学び、あるいは一般的に法学部での学びに関心を持つ高校生の皆さん(またはその保護者の方々)を念頭に置いて、京都大学法学部で学ぶことの意義についてお話をします。

最初に「法学部」と「法学研究科」の関係について説明をしておきます。法学部は、高校を卒業した人が大学生として法学・政治学を学習する場(学部)であり、法学研究科(正確には大学院法学研究科というのですが、法学研究科と略します)は大学を卒業した人が大学院生として法学・政治学をより専門的に学習または研究する場(大学院)です。いわゆる法科大学院も法学研究科の一部です。ただし、京都大学法学部と法学研究科は一体として運営されており、教員も共通しています(京都大学法学部の教員は京都大学法学研究科の教員でもあります)。私自身も法学部長と法学研究科長を兼ねています。法学研究科や法科大学院については別にページを用意していますので(法学研究科はこちら、法科大学院はこちら)、それらをお読みいただくとして、ここでは、法学部についてお話をします。

2.大学で法学・政治学を学ぶことの意義

京都大学法学部に入学すると、皆さんは、主として法学・政治学を学ぶことになります(科目数の割合でいうと法学と政治学はだいたい3対1です)。もっとも、中学や高校では、政治学はまだしも、法学を本格的に学ぶ機会はほとんどないでしょうから、法学部でどのような学習をするかを正確に把握して入学してくる方はむしろ少数派といえましょう。法廷ドラマがさかんに放映され、また、弁護士さんがテレビに登場する機会が増えたことで、以前に比べれば一般の方々にとっても法律が身近になったかもしれませんが、メディアに映し出されているのは法学部で学ぶ法学・政治学のごく一部だけです。

では、法学・政治学とはどのような学問か。ひと言で言うと国家や社会のあり方を考える学問であり、もう少し立ち入って説明するならば、社会がうまく機能し、人々が幸せであるためにはいかなる制度やルールを構築し、どう運用すべきかを考える学問だといえます。そのような制度やルールは家族間の問題や隣家との紛争といった身近な問題を解決するためのものから、事業者間、業者・消費者間、会社・株主間、使用者・労働者間の問題、さらには国家・国民間の問題、政府・自治体内の問題、果ては国家間の問題を扱うものまで様々です。法学部では、これら多種多様な場面におけるあるべき制度やルールの姿を、ときには過去の歴史や他国の経験をも参考にして、学んでいきます。このような学習を通じて皆さんに身につけていただきたいもの―それは、皆さんが社会に出て未知の問題(誰もが経験したことのない問題)に遭遇したときに、自らの頭で考え、判断し、解決策を提示する力です。法学部がこれまで長らく文系学部の中心として、社会から有為な人材を送り出すことを期待されてきたのも、まさに、法学部が上述したようなトレーニングを徹底的に行う場であり、それにより鍛えられた課題解決力が社会の様々な分野で役立つと考えられてきたからです。

平成16年に法科大学院制度が創設されて以来、法曹(弁護士、裁判官、検察官といった法律を専門職とする人のことを指します)の養成という法学部の役割がやや強調されすぎた感があります。しかし、卒業後法曹界に進む者の割合が比較的高い京都大学法学部ですらその割合は4分の1未満です。むしろ、卒業生の多くは、民間企業・官公庁等に進み、大学で学んだことを生かして社会の各所で活躍しています。法学部のこのような意義はこの先も変わることはないはずです。

3.京都大学法学部で学ぶことの意義

京都大学法学部では、法律学科・政治学科といった学科制や、法曹コース・公務員コース・民間コースといったコース制はとっておらず、どのような科目を履修するかは学生の皆さんの自由に委ねています。我々がこのような方針をとっているのは、先に述べたように、高校生の段階では法学部で何を学ぶかを正確に把握することが難しく、その一方で、京都大学法学部の卒業生の進路が実に多様であることから、法学部に入学し、実際に様々な科目を履修する中で自分に適した将来の進路を見つけてもらいたいと考えるからです。

法学部の科目、とりわけ、法律系の科目では、分厚い六法からの連想で、大量の知識の暗記を求められるというイメージをもたれるかもしれません。確かに、法学部の学習では一定の知識の習得は必要です。しかし、京都大学法学部が重視するのは、その知識をいかに活用するかです。得た知識を整理した結果や自分の考えをわかりやすく他人に説明し理解させる力、他人から提示された考えやプランを分析・評価し議論をする力、様々な選択肢の中から最良と思われるものを選び抜き、その選択が正しいことを説得力をもって論理的に説明する力―このような力を養ってもらうため、われわれは各科目の単位認定にあたっては原則として長文の論述を課するほか、1回生と3回生・4回生では少人数のゼミナール科目(プレゼンテーションと討論のための科目)を開講しています。また、京都大学法学部では、法学系・政治学系のサークルも充実しており、上述したようなスキルを課外で鍛えることも可能です。そして、皆さんに何よりも訴えたいのは、京都大学法学部では、このようなトレーニングを、難関の入学試験を突破してきた優秀な学友達とともに日常的に行うことができるという点です。将来の夢も違えば得手不得手も違う多様な優れた人材が全国各地から集まり、語り合い切磋琢磨し合える環境―これこそが京都大学法学部が提供できる最高の宝物といえましょう。

4.京都で学生生活を送ることの意義

最後に、京都で学生生活を送ることの素晴らしさについてもお伝えしておきたいと思います。京都は、世界有数の観光都市として、毎年5000万人を超える観光客を集めています。京都大学で学ぶということは、世界中の人々を惹きつけてやまない京都の魅力を日常的に体感できるということを意味します。たとえば、春の桜の時期、息をのむほど美しい鴨川沿いや疎水沿いの満開の桜並木のもとを散歩したり、そこを通って大学へ通う皆さんの姿を想像してみて下さい。あるいは、厳寒の2月、雪が降った翌朝にお気に入りのお寺を訪れ、しんとしたお堂から雪に覆われ足跡一つない庭を眺めている皆さんの姿を想像してみて下さい。京都の四季の美しさは格別です。このような四季を体感できる喜び―決まった日程で短期間の滞在しかできない観光客の方々が得るにはかなりの幸運が必要です―は、京都で生活をする人々にしか与えられない特権といってもよいでしょう。

皆さんが京都大学法学部を研鑽の場として選ばれ、京都での学生生活を皆さんの輝かしい人生の一部とされることを切に希望いたします。