高校生のみなさんへ

皆さんは、M&A(企業買収・合併)やインサイダー取引の摘発、粉飾決算や公共事業の入札談合など企業の不祥事が発覚したというニュースを見たり、無断で書籍を複写すると著作権侵害になるよという話を耳にしたりすることがあるでしょうか。

こうした話の背後には、実は、商法、経済法および知的財産法があり、これらの法ルールをどのように解釈し、適用するかが問題となります。商法、経済法および知的財産法は、企業の組織・取引に関する法分野です。実務と密接に結び付いており、実社会の変化に対応しながら法理論を発展させてきました。法改正も頻繁に行われます。経済学など隣接諸分野の知見を活用した新たな研究手法の試みも、積極的に行っています。

ただ、高校生の皆さんは、多くの場合、企業の組織や取引に触れる機会を持つことは今までほとんどなかったと思います。企業関係法だとか商法や経済法などといわれても、学生の皆さんにとっては馴染みが薄く、そもそもどのような事象を取り扱う法なのか、イメージがわかないと思う方が大半だと思います。ただし、知的財産法は、著作権の問題など、身近な問題ですので、すでにいろいろなところで話を聞いたことがあるでしょうが(あなたのリツイートは、著作者の権利を侵害しているかも……)、特許権なるものは、なじみが薄いかもしれません。

しかし、企業関係法関係の各種の授業で取り扱われる実例は、著名な企業や製品がよく登場します。決して、遠い別世界の話ではありません。かなり生々しい人間ドラマが背後に隠れていたりもします。企業関係法を勉強すれば、皆さんが学部卒業後、あるいは大学院修了後に飛び込むことになる実社会の仕組みが分かるようになります。

その際に、単に既存のルールを知るだけでも無意味ではありませんが、それに止まらず、法ルールの背後にある理論的根拠を十分に理解すれば、まだ誰も考えたこともない新しい、複雑困難な問題に直面したとしても、自ら主体的に考え、法的な問題を解決することができるようになります。京都大学法学部・法学研究科では、是非ともそのような勉強をしていきたいと思っており、そのための授業をたくさん準備しています。皆さんと一緒に勉強できることをとても楽しみにしています。

法学部における商法科目

現代の経済社会では、ビジネスを行う企業が重要な役割を果たし、ほかの企業との間で様々な取引を行っています。企業の組織はどのような形にするのがよいでしょうか。また、他の企業との間で取引をする際に、個人間の取引とは異なる考慮が必要ではないでしょうか。商法は、企業の組織構造および企業間取引に関する法ルールを取り扱う法分野です。

京都大学法学部の商法科目は、講義と演習に大きく分かれます。

まず、講義科目では、多数の受講生を対象として、基本的な法ルールについて学びます。

「商法(会社)」では、株式会社の組織構造に関するルールを主に学びます。株式会社という言葉は皆さんも聞いたことがあるでしょう。世の中で「会社」と呼ばれるものの大半は株式会社です。「商法(会社)」では、その株式会社の仕組みを学びます。事業に必要な資金の調達方法、事業に関する意思決定の方法、事業遂行過程で不祥事が起こらないように予防するための仕組みと不幸にも不祥事が起きてしまったときの対処などについて、様々なルールや裁判例が存在しており、これを学ぶことになります。これだけだと抽象的で難しそうですが、粉飾決算などの企業不祥事が起きたとか、敵対的買収を仕掛ける買収者と会社側との間でバトルになっているというニュースは皆さんも聞いたことがあるかもしれません。そうした事件で問題となる法ルールを学ぶので、ニュースの背景事情がよく分かるようになるでしょう。

「商法(総則・商行為)」では、第1に、個人がビジネスを行う場合の事業組織に必要な仕組みについて学びます。個人事業主がビジネスを行う際に自己を表すために使用する名称である商号に関する規律や、個人事業主がビジネスを行うに際して利用する補助者(支配人や代理商など)に関する規律などが取り扱われます。第2に、企業取引に関する様々なルールを学びます。皆さんが宅配便で物を送る場合に、皆さんは宅配業者との間で物品運送契約を締結することになります。さて、配達途中で物が壊れたら、皆さんは、宅配業者に対し、どのような請求をすることができるでしょうか? これは、皆さんが、物品運送契約上どのような権利義務を有するかによって決まります。「商法(総則・商行為)」では、運送契約を始めとして各種の契約の内容について勉強します。

「商法(手形)」では、約束手形という古くから商取引における決済手段として用いられてきた有価証券の仕組みについて主に学びます。手形とは、一定の金銭の支払を目的とする紙面(有価証券)であり、約束手形であれば指定日に指定の金額を支払うことを約束する旨が記載されます。現金決済とは異なり、指定日まで支払を繰り延べることができる一方で、即時決済ではないことから約束通り支払がなされない危険があるため、支払を確実なものとするための様々なルールや仕組みが存在します。

「上場会社の法規制」では、上場会社において、投資者(株主)の利益保護を図る観点で設けられている各種の法規制または「法」以外の仕組みについて学びます。第1に、金融商品取引法という資本市場を規律する法令を学びます。市場で証券を発行する際の規制について学ぶほか、上場会社の情報開示規制や企業買収における公開買付(TOB)制度などを扱います。第2に、コーポレートガバナンス・コードなどに代表される上場会社のガバナンスを決定づける「法」以外の仕組みを学びます。第3に、会社が上場をやめて非上場会社になる場面における株主の利益保護の仕組みを学びます。

次に、演習科目は、少人数の参加者による報告・討議を行うゼミであり、商法をより深く学ぶことができます。その手法は、判例分析や事例問題の検討、学術論文の講読など様々で、担当教員ごとに特色があるので、自分に合ったゼミを選ぶことができます。企業法務の第一線で活躍する実務家を招いて様々なお話を聞いたり、法律事務所や企業を訪問したりすることもあるかもしれません。

商法 前田 雅弘
齊藤 真紀
白井 正和
山下 徹哉
髙橋 陽一

法学部における知的財産法科目

現代の企業活動において、特許発明、コンテンツ(著作物)、営業秘密(企業秘密)、製品のデザインやブランドなど、「知的財産」が持つ重要性はますます大きくなっています。知的財産法は、このような財産的価値のある情報を模倣(「パクリ」)から保護する法のことを言います。

知的財産法には、特許法・著作権法・商標法・意匠法・不正競争防止法など様々な法分野が含まれますが、法学部では、知的財産法科目として、講義科目「知的財産法」と演習科目が開講されており、これらの法分野を広く扱います。講義では、単に個別の条文やルールを学ぶだけではなく、なぜそのような条文・ルールが必要となるのかといった知的財産各法の基礎理論や制度趣旨を深く学習するとともに、実際の紛争・事件の解決にどう活かされているのかを裁判例を踏まえながら学んでいきます。知的財産を巡っては、情報関連技術の進歩により、新たな法的課題が次々と生まれています。演習では、参加者による報告・討論を通じて、知的財産法の現代的課題について検討しています。

「著作権」はともかく、「特許権」などは普段から耳にする機会は少なく、皆さんにとってはなじみが薄いでしょう。しかし、スマートフォン1つを取ってみても、そこには多数の発明が含まれていますし、企業秘密が使われているかもしれません。スマートフォンのデザインや、メーカー名を表すマークも知的財産です。さらに、スマートフォンを使って見たり聞いたりする動画や音楽などのコンテンツも著作物という知的財産です。実は、皆さんは普段から数多くの知的財産に囲まれているのです。インターネットを通じて、皆さん自身がコンテンツを発信することも容易になっています。皆さんにも、知的財産法を学んで頂き、最新の法的課題を解決できる力を養って頂きたいと思います。

知的財産法愛知 靖之

法学部における経済法科目

経済法科目では、主として独占禁止法を扱います。独占禁止法は、市場における企業(事業者)間の公正かつ自由な競争を維持・促進し、そのことを通じて一般消費者の利益を確保するとともに、イノベーションや効率性の改善等を促して民主的で健全な経済成長を目指す法律です。独占禁止法は、事業(ビジネス)を行う全ての者が遵守すべき基本的ルールを定め、日本経済の在り方を決定しているものであり、「経済憲法」とも呼ばれています。具体的には、カルテル・談合、不当なライバルの排除、市場支配力を形成等することとなる合併等企業結合行為などが独占禁止法によって規制されています。

京都大学法学部では、講義科目「経済法」と演習科目が開講されており、独占禁止法の規制内容とその背景にある経済学的な理論、事業活動を行う際に独占禁止法の規定がどのように関係をするのかなどを学んでいきます。

昨年から今年にかけて、東京オリンピック・パラリンピックをめぐる談合や、電力会社間のカルテル、そしてそうした違反行為を調査等する公正取引委員会の活動が話題になりました。デジタル経済化が進む中、Google、Apple、Amazonをはじめとする少数な巨大IT企業/デジタルプラットフォームに経済力が集中しつつあることが問題になっており、このような企業の行為をどのように規制するかが世界的に課題となっています。フリーランサー、ギグワーカー、コンビニエンスストア(フランチャイジー)などに対して強い交渉力を持つ者がその地位を濫用する行為を規制することも従来から独占禁止法の重要な役割の一つです。経済と法とが交差しダイナミックに展開する経済法/独占禁止法の世界に、是非、皆さんにも触れて学んでいただき、ビジネスをめぐる法規制がどのようなものであるべきかという議論等に参画していただきたいと思います。

経済法川濵 昇和久井 理子

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