行政法とは何ぞや―或る京大生の朝より

朝起きて電灯を点け(電気事業法、原子炉等規制法…)、顔を洗い(水道法、ガス事業法…)、朝食を摂り(食品衛生法、食品表示法、農地法、漁業法…)、用を足し(下水道法…、おっと失礼!)、スマホでバスの接近表示を確認(電気通信事業法、電波法…)、ゴミ出しも忘れずに(廃棄物処理法、容器包装リサイクル法…)、歩道に出て青信号を渡ると(道路法、道路交通法…)、この町にもマンションが建つとか建たないとか(都市計画法、建築基準法、景観法…)、いつものバスに乗車したら(道路運送法、道路運送車両法…)、遠足の保育園児で満員、みんな元気だなあ(児童福祉法、健康保険法…)、鴨川を過ぎると(河川法、水質汚濁防止法…)、遠くに比叡山がみえ(森林法、文化財保護法、宗教法人法…)、ああ今日も平和だなあ(自衛隊法、警察法、入管法、外為法…)、百万遍交差点近くのコンビニに立ち寄り、電子マネーで昼食を調達(資金決済法、銀行法、消費税法、個人情報保護法…)、いざ教室へ(学校教育法、国立大学法人法…)。

そこへ仲野教授が登場、今日も颯爽としておられるなあ(肖像画参照)。
【問題】 この学生は、どうやらまだ気付いていないようですが、朝起きてから教室に着くまで、一体どれだけの行政法に遭遇したでしょうか。

公法(行政法)/行政法仲野 武志

法学部における行政法科目

京都大学法学部の行政法科目は,講義と演習に大別されます。

講義科目は,多数の学生が参加するため,教員が教科書やレジュメ等を使って説明することが中心となります。講義科目は,行政法第一部(総論)と行政法第二部(救済法)の各4単位です。行政法第一部では,行政機関の行政活動を規律している行政法規(行政作用法・行政組織法(一部))の基礎にある法的考え方や,私人への働きかけの種類(行為形式)を学びます。行政実務に携わる公務員や,社会問題の解決のための制度設計を考える知識を身につけようとする人にとって,この科目はとても重要です。これに対して行政法第二部では,違法・不当な行政活動により被害を受けた(受けそうな)市民がいかなる救済手段を使ってその被害を除去するかを学びます。具体的には行政不服審査・行政事件訴訟(以上をまとめて「行政争訟」と呼びます)・国家賠償・損失補償(以上をまとめて「国家補償」と呼びます)の4つの分野を勉強します。法曹を目指す場合にはとりわけ重要な科目となります。

演習科目は,20人前後の学生が参加する少人数の編成で,より深く行政法を学びます。その内容は担当教員によっても,また開講時期によっても様々です。例えば,行政事件に関する最新の判例・裁判例を素材に判例評釈を中心にするゼミや,行政法に関するトピック(例:まちづくり,エネルギー問題)を決めて,それに関連する法制度を調査し,問題点を分析した上で改善案を考えるゼミ,さらにはゼミ生が自由にテーマを選択して論文を執筆するゼミもあります。ゼミでは,第一線で活躍する実務家を招いて直接いろいろな話を聞いたり,行政機関に出向いてフィールドワークを行ったりすることもあります。

公法(行政法)/行政法原田 大樹

高校生へのメッセージ

行政法が扱う社会問題の範囲は広く、ごみの収集や自動車の運転免許といった日常的なものから、原子力発電所の設置のような非常に大きなスケールのものまで様々です。行政法は、私たちの生活に驚くほど強く結びついています。

行政法という科目では、みなさんが法律に対して抱いているイメージのとおり、行政と市民との間でもめごとが起こったときに、それを裁判でどのように解決すべきかを考えます。しかしそれだけではありません。行政の仕事は、社会に存在する諸課題の解決を目的としています。その活動が適正に、かつ実効的に行われるためのルールや制度をどのように形作るべきかという視点も、きわめて重要なものとされているのです。国家、社会の仕組みをより深く知るために、そして法的な観点から正義を考えていくために、行政法を学ぶ意義は大きいものといえます。

公務員として公の仕事に携わりたい人はもちろん、弁護士など法律家として正義の実現を目指したい人も、行政の規制のもとでビジネスを展開させる企業で活躍したい人も、そして漠然と法学や京都大学法学部に興味を持ってこのページを見ているあなたも、私たちと一緒に行政法を学んでみませんか。

公法(行政法)/行政法須田 守

余は如何にして行政法学徒となりし乎

各大学では「○○法」という名称の科目が多数開講されていますが、どの科目に関する法律問題も、裁判所に行けば、民事、刑事又は行政事件のいずれかとして扱われます(行政法が基本三科目の一つといわれるゆえんです)。このうち行政事件が占める比率は、地裁レベルではわずかですが、最高裁の合議事件では約1/3にまで跳ね上がるそうです。最高裁判事の方々は、異口同音に「行政事件は難しい。先例も少ないし」とおっしゃいます。最高裁には、通常約1名の学者出身判事がいますが、このうち5年以上務めた方々のほとんどが行政法学者でした。行政法の分野で、実務が学説をどれだけ頼りにしてきたかが分かりますね。

民法、刑法等の六法と比べて、行政法の最大の特徴は、法典化されていない(行政法という題名の法律は存在しない)ことです。行政法とは、森羅万象ありとあらゆる政策に関する膨大な数の法令(法律、政令、省令、条例等)の総称であり、これらは毎日のように制定・改廃されています。それにもかかわらず、全体としての統一性・整合性が確保されているのは、実は行政法学あってのことなのです。そんなことをいうと、何だかシュールな話を聞いたと思うかもしれません。けれども、かつては、一見きわめて雑多なローマ法源から一般概念を析出し、理論体系を構築することが、民法学の役割でした(それらを制定法化したのがフランスやドイツの民法典なのです)。現在の行政法学は、この時代の民法学と同じく、すぐれてダイナミックな状況にあるといえるでしょう。

このようなわけで、行政法学の研究を続けていると、気がついたら先行業績のない最前線の領域に出ていたということが少なくありません。世界を縦割りでみるだけでは飽きたらず横串で鳥瞰してみたい人、基礎理論にまでさかのぼって壮大な体系を組み立ててみたい人、抽象的な理念でなく具体的な政策に即して公益と私益の調整のあり方を突きつめてみたい人には、おすすめの科目です。

公法(行政法)/行政法仲野 武志

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