政治学(歴史、思想)とはどんな分野か

政治の歴史や思想を扱うこの分野は、高校の社会科でいえば日本史・世界史や倫理にあたりますが、社会科というと、年表や人名を丸暗記する科目というイメージをもっている人が少なくないようです。本当は違うのですが、まあそういうことにしておきましょう。何年にナニが起こっただの、ナントカを唱えたのは誰それだの、細切れの知識をひたすら覚える作業、受験が終わったらさっさと足を洗いたい苦行、ということにしておきましょう。

では、そうして覚えた事柄を、本当に理解している人はどれだけいるのでしょうか。たとえば、今の日本が自由民主主義国家だということは誰でも知っています。自由主義は個人の自由や権利を尊重する考え方で、近代のヨーロッパで発達したこと、また民主主義は人民が自ら統治にあたる政治のやり方のことで、とおく古代ギリシアに起源をもつことも、高校で学んで知っているはずです。ですが、何かおかしくないでしょうか。自由主義に従えば、自由な個人の間で利益や意見が異なるのは当然だ、違いを認め合うべきだということになりますが(みんな違ってみんないい)、たほう民主主義がめざすのは、多くの人間が一つにまとまって決定を下すことです(みんな同じ人民だ)。すると、自由主義と民主主義は、実は相性がよくないのではないでしょうか。その二つを、なぜ、自由民主主義と称してミックスすることになったのでしょうか。もっとよい政治の理念やしくみは、ないのでしょうか。

以上は政治学が扱う問題のほんの一例ですが、みなさんは答えを知っていますか。私は知らない、少なくともはっきりとは答えられません。答えも分からずに大学で教えてるのか!と怒られそうですが、だから研究しているのです。分からないから、その問いにまつわる歴史的経緯や思想的背景について色々調べて日々考え、それを講義や演習の場で学生さんたちに伝え、問いかけながら、答えを探しているのです。歴史と思想を学ぶとは、そういうことです。そして、そうした学びに真剣に取り組むとき、高校でならい覚えた様々な知識がはじめて、過去から現在を照らし出す思考の糧として存分に活かされることになるはずです。

政治学/「政治思想史」等担当森川 輝一

政治学(歴史、思想)科目の紹介

法学部にも、哲学や歴史の科目があります。それは、私たちの法律や政治の仕組みが、なぜ必要とされるのか、どのような経緯をたどって今日のカタチになってきたのかを十分に理解するためには、不可欠だと考えられているからです。

具体的には、「政治史」「日本政治外交史」「政治思想史」といった科目がありますが、必ずしも、すべての地域、すべての時代を網羅するものではありません。私たちの社会に大きく関連すると考えられるヨーロッパと日本が中心となります。さらに、英語で行われる授業もあります。「International History 1900 to the present」は、文字資料のみならず、様々な媒体を用いつつ歴史を多角的に掘り下げる授業です。

こうした分野は、高校時代に丸暗記科目だと思ってきたかもしれません。しかし、そこで暗記した有名人や出来事の意味を深く掘り下げて考えてみたい人、またいきなり法律学に立ち向かうことにたじろぐ人は、この分野の科目から履修してみてはどうでしょうか。上記の科目は、すべて2回生から履修できます。

また、上記の日本語の科目については、それぞれ演習があります。教員の話を聞いてノートをとる一方向の講義科目とは異なり、学生が主役となる科目ですし、その都度テーマも変わります。そのため、担当する教員やその時に参加している学生によって、演習の様子は大きく変わるかもしれません。演習では、授業で学んだ知識をもとに、さらに個別のテーマを深掘りすることもできますし、なにより、他の学生たちとともに学ぶ場、議論をしあえる場となります。一人で本と向き合うことも大切ですが、それとは異なる勉学の方法もありますので、トライしてみてください。

政治学/「政治史」等担当唐渡 晃弘

高校生へのメッセージ

Welcome to the political science section of faculty of law at Kyoto university. The study of political science focuses not only on how politics functions but also teaches us an understanding of the people, actions, events, and processes that shape the modern world. Studying politics through its history and ideas offers us valuable insights into how and why society has changed, which better equips us to understand the world we live in today.

If you wonder how ideas, commerce, warfare, science, empires and revolutions have created our current world then political science will provide you with the answers. Our department is world famous in this field and we offer a unique perspective on Japan’s own history and politics and also the development of history and politics across the globe. Since the behaviour of countries in the international arena cannot be understood without a knowledge of their distinct social, political, economic and cultural characteristics, we provide courses covering major aspects of the history of ideas and mentalities.

Through studying political science, you will learn how to analyse complex evidence from a variety of sources, to develop your critical thinking and to present your research effectively. These skills and a broad knowledge of the development of the world around us are highly valued in today’s globalised job markets. Our former students have benefitted greatly from our approach to the study of political science and have gone on to a range of careers in politics, journalism, media and publishing, advertising, marketing, and public relations, public administration, industry, finance, consulting and the legal profession, as well as in research, teaching, libraries and archives.

政治学/「International History 1900 to the Present」等担当
MURPHY, Mahon(マーフィー・マハン)

研究紹介―現在と過去・日本と世界

私の専門は、日本政治外交史という分野です。この分野は、近現代日本の政治と外交を歴史的視点から考察することを課題としています。高校の日本史や世界の近現代史分野を発展させたものといえばイメージしやすいと思いますが、単にそれらを詳しくしたものではありません。この分野は政治学の一領域を形成しており、統治機構、政治指導、日本を取り巻く国際関係、政治と社会の関係などについて、歴史的分析を踏まえた知見を提供することを課題としています。その意味で、単に「過去」の事象についての知識を得るのではなく、「現在」について知り、さらには「将来」を展望することが、この分野を学ぶ目的となります。

私自身は、戦前の二大政党政治というテーマで、研究生活をスタートしました。私が高校生・大学生だった1990年代は「政治改革」が大きなテーマで、自民党一党優位体制後の政治がどのようなものになるのか、様々な議論が行われていました。私はそうした同時代の風潮から影響を受け、将来の議論に資する史実や教訓を汲み取ることを意識しながら、大正・昭和初期の政党政治研究に取り組んできました。歴史とは「現在と過去との間の尽きることを知らぬ対話」(イギリスの歴史家E・H・カーの言葉)だと言われますが、まさにそれを地で行っていることになります。

最近は、第一次世界大戦と日本のかかわりについても研究を進めています。第二次世界大戦のインパクトがあまりにも大きかったためか、日本では第一次世界大戦の影が薄く、研究もそれほど活発ではありませんでしたが、世界史的にみると後者も前者に劣らず重要です。実際、日本も第一次世界大戦期に活発な外交を行っており、同大戦と深いかかわりを持っています。第一次世界大戦期を中心に、日本外交の歩みを世界史的視野の中で捉え直すというのが、今の私の一番の関心です。

政治学/「日本政治外交史」等担当奈良岡 聰智

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