国境を超える政治の世界-政治学(国際関係、比較政治)とはどんな分野か

政治という言葉は通常、単一の国家や社会の中で行われるという前提で扱われることが多いものです。そもそも英語の政治(politics)の語源となったギリシャ語のポリスは一つの都市国家を指しています。つまり政治はまずもってある程度自立した社会や国家において営まれるというのが伝統的な考え方で、政治学の研究対象もこうした考え方に沿ってきました。

しかし近代になると人間の活動範囲は一つの国家を超えて他国と関わることが加速度的に増えてきました。地理的な広がりだけでなく、異なる文化や文明に属する社会や国家との関わりも多くなりました。その場合、異なる社会の政治制度や政治の機能、あるいは国家間の関係に関する理解を深める必要性が高まってきます。もちろん異なっているように見えて実は類似した政治制度や現象を発見することもあります。

こうした背景から発達したのが比較政治や国際関係といった研究分野です。比較政治は複数の国家や社会の間で政治のあり方を比較した上で、各国の社会や歴史と政治の関係や文化的相違を超えた政治の本質を探求する学問です。国際関係(国際政治)は主に国家と外国との関係や広く国際社会の性質をテーマにしています。かつては外交・安全保障、政治経済が中心でしたが近年では社会集団としての関係や文化交流も重要な課題になってきています。グローバル化がますます進む今日、他国の政治を理解し、国際関係を知ることの重要性はますます高まっています。比較政治や国際関係を学ぶことは、政治や行政・外交分野に進む人にはもちろん、どのような進路に進む人にとってもみのり多い機会となるはずです。

政治学/「国際政治学」等担当中西 寛

世界という視点―政治学(国際関係、比較政治)科目の紹介

国際関係や比較政治に関連する科目として「国際政治学」「国際政治経済分析」「アメリカ政治」「比較政治学」などがあり、それぞれ講義と演習があります。世界的な視点から政治について学びたい、考えたいと望む学生にとってとくに興味深いものとなるはずです。

講義は四単位で、2回生以上に配当されています。「国際政治学」や「国際政治経済分析」では、諸国家間の関係やそこに生じる変化、一国の枠を超えた問題とそれへの対応、またグローバル・ガバナンスの実現に寄与する国際秩序の形成と機能について検討します。「アメリカ政治」や「比較政治学」では、欧米諸国の政治の特質やそれをもたらした背景、民主主義諸国が直面する政治課題とその帰結に見いだされる普遍性と多様性、それらを左右する因果関係の解明などが主題となります。これらの授業をつうじて、政治現象を多角的に捉えるための歴史的・理論的な観点や分析枠組について学ぶとともに、国際的・世界的な諸問題にかんする理解が深まることが期待されます。さらに言えば、国際問題や外国政治に関心を寄せる学生だけでなく、現代日本の政治状況について、それをとりまくより広い環境や文脈を視野に入れ、また各国の経験を参照しつつ俯瞰的に把握したいという意欲をもつ学生にも示唆や刺激をもたらすことのできる授業にしたいと考えています。

演習(半期二単位)は少人数教育を特色とし、より深くまた能動的に学ぶ場です。国際関係や比較政治にかんする文献について、担当者による報告に基づき緻密に検討するとともに、その知見がもつ意義をめぐってそれぞれの見解を明らかにすることで、課題に共同で取り組む面白さや、議論する楽しさを味わってほしいと思います。演習の方法や内容は科目によりさまざまですが、自由報告や論文執筆の機会が設けられることもあります。

政治学/「比較政治学」等担当島田 幸典

高校生へのメッセージ

今日の世界では不可解な事件が多数発生しています。これまで世界をリードしてきたイギリスとアメリカに内向き志向の政権が誕生したこと、国境を横断する多数の移民・難民が発生していること、多数の市民を巻き添えにしたテロ事件が後を絶たないこと、欧米諸国によって構築された国際秩序が中国やロシアという新興国から変更の圧力を受けていることなど枚挙に暇がありません。

これらの事件の原因は何か、どのような意義があるのか、どのような帰結が待ち受けているのだろうか。また、こうした一見すると全く異なると映る事柄の深層には、人間社会に共通の一般的な原理が働いているのかもしれません。これらの疑問を解明する学問的作業は、学術書や公文書の文献調査に留まらず、政府高官への聴き取り調査、一般市民へのサーベイ調査など多岐にわたる労苦と時間を伴うものです。その一方、学部における講義授業や演習での活発な議論も、こうした作業を深めつつ、学生と教員が一体となって新たな知の境地を切り開いてくれるものです。

卒業後の将来、研究者、外交官をはじめとした国家公務員、国際連合諸機関の国際公務員、国際的なビジネスパーソンなどとして活躍することを夢みている皆さんにとって、京都大学法学部の国際関係・比較政治に関わる科目は貴重な学びと飛躍の場を提供してくれるものとつよく信じています。

政治学/「国際政治経済分析」等担当鈴木 基史

研究紹介―制度から政治を考える

私は、政治の仕組み(制度)と有権者や政治家など(アクター)の相互作用、すなわちある制度の下でアクターがどのように行動するかに注目しながら、アメリカや日本などの先進主要国における政策の決まり方について研究しています。その際に重要なのが、比較の視点です。同じ制度でありながら、政策の決まり方が異なるのはなぜか。異なった制度でありながら、政策の決まり方が似ているのはなぜか。このようなことを考え、実際のデータや資料によって確かめる作業を続けています。

このような作業から分かることの一例を挙げましょう。アメリカの大統領はときとして大きな政策変化をもたらします。2009年から17年まで在任したオバマ大統領は2010年に、それまでアメリカでは導入不可能だとされてきた国民皆保険制度(国民誰もが加入できる医療保険制度)の導入に成功し、その制度はオバマケアと呼ばれています。オバマケアの実現は、極めて大きな政策変化でした。しかし、その後は大きな政策的成果はあまり得ることができませんでした。

同じ大統領なのに、なぜ限られた場面でしか成功しないのか。その背景には、アメリカ政治の制度的な要因がありました。政党間の関係や、大統領と議会の間の関係に注目することで、鍵は大統領の個性や能力以外のところにあることが分かるのです。

もちろん、制度とアクターの相互作用が、政策の決まり方のすべてを説明するわけではありませんし、他の説明も十分に成り立つ場合があるでしょう。比較政治の研究の意義とは、そのようにさまざまな説明を考慮に入れながら、複雑な政治現象の核心部分にある因果関係を把握することだと思います。

政治学/「アメリカ政治」等担当待鳥 聡史

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