法理論とはどのような分野か

法学部や法科大学院で法学を勉強するというと、現在この国で通用している種々の法制度のあり方を理解し、様々に生じる個々の事案に法的に満足のいく解決を与える方法を習得するということを真っ先にイメージされるでしょう。もちろん、このような勉強は非常に重要ですが、それに加えて、現行の法制度に対する批判的な視点を獲得することが是非とも必要です。そして、そのためには、この現行の法制度を対象化・相対化するという作業が不可欠です。基礎法学に分類される諸分野は、多かれ少なかれ、この対象化・相対化という作業をその重要な任務として引き受けていますが、そのなかでも法理論(法理学・法社会学)は、主として、現行の法制度を支える基礎的な諸概念や諸価値を分析したり、その現実の社会における作用のあり方を解明することを通じて、この任務を果たすように努めています。

法理学近藤 圭介

学部における法理論関連科目

法理学の講義では、法現象に対する原理的・理論的な考察の方法をめぐる基礎的な知識を提供することを目的にして、これまでの長きにわたる法の原理的・理論的な探求の歴史の中で提唱されてきた様々なアプローチを体系的に取り上げ、その内容について批判的に分析・考察しています。受講生の皆さんには、この講義で触れられた数々のアプローチを足掛かりにして、各自で自らが興味や関心を持っている様々な主題について自由に思考を巡らせ、突き詰めて考えるということを試みて欲しいという思いを込めつつ、毎回の授業を行なっています。

法社会学という科目の内容は、その担当者次第というところがあります。本学では、いまのところ、法と社会の歴史的展開をテーマに授業を行っています。講義では、概念法学からポストモダン法学にいたる法学の流れをストーリーの軸にしながら、法意識論(日本人の法意識は前近代的なのか)や司法政治論(裁判は政治から切り離されているのか)など、一般的なトピックも扱うように心がけています。演習では、英語の専門書を講読しています。普段見慣れない内容を整理し報告するという経験は、社会に出た後にも役に立つのではないかと考えています。

高校生へのメッセージ

法理論とはいかにも堅苦しいので、法のあり方について、特定の答えを求めずに、あれこれ調べたり考えたりする営みである、と言いかえてみたらどうでしょうか。

グローバル化やAIの登場などに見られるように、社会は大きく変化していますので、法もこれに合わせて変化していかなければならないのでしょう。法理論とは、現在の法のあり方をいったんカッコに入れて、その新しいあり方を構想する営みである、と一方では言えるように思います。他方で、何の根拠もなくただ空想にふけっているだけでは、学問的な営みとは言えません。法理論は古典を重視します。偉大な先人たちの足跡をたどり、その中に新たな一歩の手がかりを見出すこと。法理論とは、温故知新を精神とする営みである、と言えるようにも思います。

伝統ある京都大学法学部こそ、法の新しいとらえ方を生み出すことができると信じています。皆さんも、落ち着いたこのキャンパスで、調べ考えぬくことの楽しみを味わってください。

法社会学船越 資晶

法理論研究の魅力

「法理学は、法哲学とも呼ばれ、何をやってもよい学問分野ではあるが、……。」これは、私(近藤)が学部生の頃に法学部のシラバスを眺めていて目に留まった、法理学の講義内容の説明欄に載せられていた文章の書き出しの一節です。私には、私の先生であった前任者が記したこの一節に、法理学研究の魅力が詰まっているように思われます。私なりの言葉で表現するなら、各人が自らの問題関心に応じて主題を自由に決定し、関連する既存の研究にきちんと目配せしつつも、自分の頭で理屈を詰めてどこまでも考えること許されているところに、その魅力があるのだと思います。私の場合は、グローバル化と法という現象を主題とし、法理学を含む様々な学問分野で得られた知見に学びつつ、日々ああだこうだと自由に頭を悩ませながら考えています。

法社会学は、社会理論を用いて法を語ることを自らの役割のひとつとしてきた学問分野です。私(船越)はこれまで、ポストモダニズムなどを導入することで法学の革新を図った批判法学の理論を、まずは正確に理解することを目標に研究を進めてきました。最近は、この批判法学を用いて、一般的な法理解を書きかえる作業に取り組んでいます。例えば、法解釈方法論史を系譜学的に読み解いたり、裁判理論を闘技民主主義の観点から組み替えたり、といった具合です。途方もなく大きなパズルを組み立てるのにも似て、この作業は終わりそうにありませんが、1つでもうまくはまるピースが見つかったときはやはり嬉しいものです。

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