私達の日常生活は契約に取り囲まれている、とよくいわれます。例えば、朝起きて朝食のパンをとり(売買契約)、電車やバスで大学に行き(運送契約)、授業を受け(在学契約)、授業後はアルバイトに行き(雇用契約)、1人暮らしのアパートの部屋に帰って(賃貸借契約)、スマホを操作し(携帯電話利用契約)、音楽を聴く/映画を観る(サブスクリプション契約)、などなど、例を挙げればきりがありません。

民法という法分野の最も重要な対象の1つが、この契約に他なりません。それ以外にも、民法は、誰がどのような財産について権利を持っているかということ(所有)、他人の権利・利益を侵害してしまった場合にどのような責任が発生するかということ(不法行為)、夫婦・親子その他の家族間にはどのような関係が生じるかということ(親族)、親族に不幸があった場合にその財産を遺された親族間でどう分配するかということなど(相続)、私達の生活に関わる事柄を幅広く定めています。

以上を要するに、民法とは、私達の住んでいる社会の基本的な仕組み(個々人の財産と家族に関する私的な生活関係)を形作る法だということができます。したがって、民法を学ぶということは、社会の仕組み(の一端)を学ぶことに他なりません。この点で、将来法律家を目指す人に限らず、そうでない人にとっても、民法を学ぶ意義は大いにあるわけです。

ちなみに、民法は、「私的生活関係においてどのような場合にどのような権利や義務が認められるか(それとも、認められないか)」という点についてのルールの集成ですが、ある権利の有無・内容等について争いが生じた場合(民事事件・家事事件)、そうした争いはどのような「手続」のもとで解決されるのでしょうか(「手続」の例:民事訴訟)。また、そうした一定の「手続」を経て争いに「解決」が示されたにもかかわらず、それでもなお相手がそれに従わない場合には、どうすればよいのでしょうか(「解決」の例:裁判所の判決)。こうした問題は、民事訴訟法や民事執行法といった(民事)手続法に属する法分野で取り扱われます。民法のみならず、民法が定めている権利の具体的な実現過程にも目を向けることで、権利を「絵に描いた餅」としないための仕組みを学ぶことも重要です。

さて、それはさておき、上に述べたとおり民法が社会の基本的仕組みを形作る法であるということは、同時に、社会の仕組みが変わっていけば民法も変わらずにはいられないことをも意味します。現在、空き地・空き家問題、認知症高齢者の交通事故問題、自動運転その他に活用されるAI技術、デジタルプラットフォーム、生殖補助医療、SOGIなど(なお、「コロナ禍」をここにもう挙げなくてもよさそうになりつつあることは、喜ばしいことです)、様々な方向から社会の仕組みを大きく揺るがしうる現象なり技術なり考え方なりが見られるのは、周知のところです。これからの民法は、こうした現象・技術・考え方にも適応しつつ、新時代のあり方を適切に制御していく必要があるでしょう。その意味で、民法もまた、今まさに岐路に立たされている法分野でもあります。だからこそ、そこでの最先端の議論は、必ずや皆さんの知的好奇心を満たしてくれることでしょう。

基本的でありながら奥深い。そんな民事法の学習を、楽しみながら皆さんと一緒にしていきたいと思っています。

民刑事法(民事法)/民法
和田 勝行

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