京都大学大学院法学研究科・法学部

平成28年度法学部入学式挨拶

法学研究科長・法学部長  潮見 佳男


  新入生の皆さん、入学おめでとうございます。
ご家族、ご関係の皆様におかれましても、お慶びは、いかばかりかと拝察します。法学研究科の教員一同を代表して、心からお祝いを申し上げます。
  新入生の皆さんは、これから、京都大学法学部において、法学・政治学の勉学を始められることになります。皆さんの中には、既に大学を卒業した後の進路を見据え、この先4年間での法学・政治学の授業に参加しようと心に決めておられる方もいらっしゃると思います。他方で、法学部に入ったものの、大学を卒業した後にどのような人生を歩みたいのか、まだ漠然としか考えていない方もいらっしゃると思います。さらには、そもそも法学部で法学・政治学の授業の内容がどのようなものなのか自体、具体的なイメージをつかめきれていない方も少なくないのではないかと思います。
  数学や物理学などと違い、高等学校までの教育で法学・政治学に対する導入部分の教育が十分にされていないことも、その大きな原因ではないかと考えるところでもあります。
  私からは、法学部長として、また、1977年4月に皆さんがいる席に座っていた一人の先輩として、新入生の皆さんに対し、「夢を持つ」ということの功罪と、「夢をリセットする勇気」、そして、法学・政治学を学ぶ意味と、京都大学で法学・政治学を学ぶときの心構えをお話しします。
  まず、既に大学を卒業した後の進路を心に決めて、この先4年間の法学・政治学の授業に参加しようと考えておられる皆さんに、一言メッセージを送ります。皆さんが心の中に抱いている夢は、これまでの想い出とともに、是非とも大事にしてください。「夢を持つ」ということは、これからの世の中を生きていく際の希望の光、くじけそうになったときのよりどころになります。同じ夢を共有する仲間たちとの出会いと交流を通じて、社会の中でその夢を実現する可能性を広げることもできるでしょう。他方で、皆さんは、この先、法学部での授業を通じ、また、大学生活の中での先輩や同期生との出会いと交流を通じて、新たな発見をし、世界の広さを知り、自分にできることは何かを意識し、ときには自問自答をすることになろうかと思います。そのときに、入学時の夢に頑なにこだわることは、ときとして、自らの視野を自らの手で狭め、多様な意見や考えを持つ人たちとの対話の場を自らの意思で閉ざしてしまうリスクを伴います。この4年間の大学生活では、授業への参加やサークル活動、友人との勉強会、海外への留学体験などバラエティに富んだ生活が待ち受けていますが、そのような大学生活を通じて、当初抱いていた夢から離れることになったとしても、何ら恥ずべきことではありません。入学時に抱いていた夢や希望を一旦リセットする勇気も必要です。4年間の大学生活を送る中でみずからの教養と専門を深めることによって自分を磨き、また、周りの人たちとの交流を深めることによって人間社会の多様性を知ることで、自分が大学卒業後に何をしたいのかを見つけることこそ、私の望むところです。
  次に、法学部に入ったものの、大学を卒業した後の進路や自分の人生設計などについて、漠然としたイメージしか抱いていない皆さんにも、私からのメッセージを送ります。京都大学法学部には、全国、さらには諸外国から、様々な関心を持ち、様々な趣味を持ち、様々な中学・高校生活等を送ってきた優れた人材が集まってきています。そうした多彩な人たちや大学の教員との交流を重ね、さらにまた、これからの教養科目や法学・政治学の専門科目の授業に参加する中で、自分がこれからの人生でやってみたいこと、将来の夢を見つけることができるはずです。皆さんの先輩たちの多くも、そうではなかったかと思います。もちろん、そのためには、皆さんには、自らの教養を深め、専門科目である法学・政治学を「主体的に」学び、大学生活を送ることが求められます。
   京都大学法学部での授業は、多くの中学・高校での授業と違い、みずからの意思で「学びの設計書」を作り、みずからの責任で「学びの場」を活かし、ここに一堂に会している同級生たちとともに成長していくところに特徴があります。およそ「大学での学び」とは、誰かに強制されて何かを勉強し、学習の成果を記憶するというものではなく、みずからが進んで未知の事柄に挑戦し、みずからの力で「学びとる」というものです。私たち教員は、皆さんの成長を手助けすることは致します。しかし、成長するのは皆さん自身です。いくら立派な教育システムがあり、カリキュラムがあり、卓越した教育スタッフがいたとしても、このような環境をどのように活かしていくかは、皆さん次第です。皆さんには、この4年間、みずからの力で、積極的に「学びとる」という志をもって、授業に臨むことを切に希望します。
 とはいえ、京都大学法学部でこれから何を学ぶのか、法学・政治学を学ぶことにどういう意味があるのか、イメージが浮かびにくい方々もいらっしゃるかと思います。かつて、私が学生だった頃、「法学部の卒業生は、つぶしが利く」と言われることがありました。それは、@法学・政治学を学ぶことにより、法学部で学んだ者が卒業後にどのような進路をとるのであれ、これからの社会で活躍するうえでの基礎となる知性と、論理的な思考力と、社会を見る力を獲得するからです。それとともに、A国家・社会・企業の重要なインフラであるルール作り、政策形成にとって不可欠の人材として活躍することが期待されているからです。このことは、今でも変わるところがありません。
  現に、100年以上も前から、かつての京都帝国大学法科大学、現在の京都大学法学部で学び社会に飛び出していった皆さんの先輩は、法学部を卒業した後、裁判官・検事・弁護士といった法曹、研究者、公務員、民間企業など、社会のさまざまな領域において指導的な立場で活躍する有意な人材となり、活躍しておられます。皆さんも、是非、京都大学法学部での学びを通じて、先輩方の後に続いてもらいたいところです。
  私たちの未来をどうするかは、私たちあるいは皆さんの保護者の方々の世代に課せられた使命であると同時に、あなた方の世代にもかかっています。とりわけ、京都大学法学部に入学され、法学・政治学という、社会や人間のあり方にかかわる学問を学ぶこととなった皆さんにおかれましては、このことを自覚し、これからの勉学に望まれることを期待します。とりわけ、法学部に入学された皆さんには、本日午前にみやこメッセで開催された全学の入学式において、山際総長が祝辞の中で、フランス革命の時代にさかのぼり、ルソーの社会契約論にも言及しながら皆さんに問いかけた「自由」の持つ意味、日本国憲法が「自由」を崇高な価値として保証していることの意味、「学問の自由」の持つ意味、さらには、皆さんの世代に選挙権が与えられることの意味を、この先の大学生活を送る中で、繰り返し問い直していただくことを、希望します。
  それと同時に、大学生活というのは、生涯にとっての友を見つける場でもあります。ぜひ、クラスメイト、ゼミの仲間たち、サークル活動等を通じて、かけがえのない友情をはぐくんでください。
  ごあいさつの最後に、私から、法学部に関係する二つの団体と、本日は多くの保護者・関係者の皆様にもご出席いただいておりますから、京都大学法学部の保護者会である法友会について、紹介をさせていただきます。
  まず、法学部に関係する団体として、法学会を紹介します。法学会は、法学部・法学研究科の教員、学生等を会員とする学術団体で、毎月、法学論叢という学術雑誌を刊行しています。教員や院生が論文を掲載しており、法学・政治学に関する最先端の議論を見ることができます。また、春と秋の2回、学術講演会を開催しており、本学の教員が講演をいたします。この4月21日に春季の学術講演会が開催されますので、皆さんのご来聴をお待ちしております。皆さんが法学会に加入され、学術の発展をともに支える仲間となっていただけるよう、お願い申し上げます。
  次に、これも法学部に関係する団体である、有信会を紹介します。有信会は、法学部の学生、法科大学院生を含む法学研究科の大学院生、法学部や大学院の卒業生・修了生、そして、法学部・法学研究科の教員・元教員を構成員とする団体です。在学生の親睦団体であると同時に、京都大学法学部の同窓会という性質を持つ団体です。有信会誌という会誌を年2回発行しています。大学内においては、主として、学生委員が中心となって活動しており、講演会、親睦旅行、卒業記念アルバムの作成等が行われています。本日はご来賓として、本学部OBで有信会の理事であられる山本雅弘毎日放送最高顧問に入学式へのご参加を賜りました。また、本日夕刻に予定されている新入生歓迎会も有信会活動の一環ですが、この新入生歓迎会には、教員も多数参加するほか、有信会の各支部の幹事様や、企業で活躍される卒業後間もない先輩方も出席を予定されていますので、新入生の皆さんには、ぜひご参加いただき、教員・先輩方との歓談と交流の機会をもっていただきたいと思います。
  また、有信会は、さきほども申し上げましたように、法学部同窓会としての組織でもありまして、学部学生、大学院学生が卒業し、就職をした後の懇親と交流の場にもなっています。同期の学生たちの間での卒業後の交流、同じ職場内での同窓の先輩・後輩としての交流、就職先の各地域における地域ブロック内での交流、卒業後の法学部教員・名誉教授の方々との交流など、有信会は、在学時、さらに卒業後の歩みにとって欠くことのできない親睦団体です。まだご入会いただいてない新入生の皆さんには(さらには、これは本日ご出席の保護者の皆様に向けてのメッセージでもございますが)、卒業後の進路ほか将来を見据えて、是非、入会していただくことをお願いします。
  最後に、法友会についても、紹介をさせていただきます。法友会は、法学部の在学生のご家族の皆様で組織されている団体です。1952年に「京都大学法学部父兄懇談会」として発足した歴史と伝統のある団体です。法友会は、毎年、入学式後に懇談会を開催しています。この懇談会には、何人かの教員も出席し、教育課程や各種試験、また、その後の進路のことなど、意見交換をさせていただいております。さらに、そのときどきの大学や法学部を取り巻く状況ほか、ご家族の皆さんに有意義な情報を掲載した会報を発行しています。法友会に入会していただいたご家族の皆様には、法学部学生を主たる対象として、春と秋に連続講演会方式で開催している企業特別講演会、これは、学部学生が自らの進路を考える際の材料を提供しようということで各産業分野を代表する企業の人事担当者に来ていただいて講演をしていただく場でありますが、この企業特別講演会への参加の機会も広げています。その他の点も含め、より詳しい活動の内容は、法友会ホームページをご参照いただければと思います。
 法友会は、私ども教員にとっては、京都大学での法学・政治学教育を支えていただく心強いサポーターでもあり、また、ご家族の皆様にとりましては、お子様が在学されている京都大学での法学・政治学教育の状況を詳しく知ることのできる場でございます。特に、近年は、京都大学における教育カリキュラムの大幅な見直し、GPA制度の導入、さらには法科大学院・司法試験制度、公務員試験をめぐる新たな動きなど、法学部在学生の保護者の皆様には目を離すことができないであろう状況が立て続けに起こっています。そのような内外の状況を、単にインターネットの質問箱や書き込みといったような不確かで必ずしも信用の置けない情報源から得るのではなく、京都大学法学部の教員から直接に説明を受け、意見交換をするというのは、きわめて有意義な機会ではないかと思います。本日の段階で、既に多くの保護者様に後に入会をしていただいていますが、本日この場にご出席のご家族の皆様で、まだ入会をされていない方々におかれましては、当日の入会手続も懇談会会場入口にてしておりますので、ご参加をいただければ、大変ありがたく存じます。
  以上で、私からのあいさつは、終わります。新入生の皆さん、京都大学法学部への入学は、皆さんにとっては、新たなスタートラインに立ったということを意味します。しかし、ただそれだけのことです。京都大学法学部への入学が、皆さんの夢の実現であってはいけません。京都大学に入学したから自分が偉いということでもありません。天狗になってはいけません。これからの京都大学での学びを通じて、自分にとっての夢を見出し、それを確かなものとするための研鑽を積み、これからの日本社会、国際社会で活躍される力を身につけられるよう、期待します。  以上をもちまして、私の挨拶とします。

2016年4月7日
                                                    京都大学法学部長  潮見佳男