京都大学大学院法学研究科・法学部
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平成29年度法学部入学式挨拶

法学研究科長・法学部長  洲崎 博史

 
 新入生の皆さん、本日はご入学おめでとうございます。また、ご家族、ご関係の皆様におかれましても、お喜びはいかばかりかと拝察いたします。教員一同を代表して、心よりお祝い申し上げます。  
 新入生の皆さんは、これから京都大学法学部において、法学・政治学の勉学を始められることになります。この法経4番教室でも何度も授業を受けられることになるはずです。本日は、今から39年前この同じ教室で入学式を迎えた皆さんの先輩として、また、現在教鞭を執るものとして、京都大学法学部で学ぶことの意味についての私なりの考えを申し上げ、皆さんへの激励の言葉とさせていただきたいと思います。
 法学部という進路の選択にあたっては、大学卒業後の進路も考えたうえで法学部を選択されたという方ももちろんいらっしゃるでしょうが、そのような特段の考慮をせず何となく法学部を選択したという方も少なからずおられると思います。後者のタイプの方からすると、将来の進路について確固とした志望を持っている前者のタイプの方がまぶしく見えるかもしれません。しかし、現時点で自分の将来像を描けていないということを気に病む必要は全くありません。そもそも高校までの教育課程においては、政治学はまだしも法学を学ぶ機会は極めて限られていますから、法学部に入学する時点で、法学部で何をどのように学び、それを自分の将来にどのように生かすかについて具体的なイメージを持つことができなくても仕方のないことです。むしろ入学後の勉学の中で、あるいは学友や教員と交流する中で自分が進みたい進路を見つけ、その進路に進むための努力をし、それぞれの進路に向けて巣立っていく、というのが法学部生によく見られる姿で有り、わが国社会もそのような法学部生を広く受け入れてきたといえます。  
 法学部というと、司法試験に合格し、法曹資格を得て裁判官、検察官、弁護士といった実務法曹として活躍するという進路がまず思い浮かびますが、法曹志望者が比較的多いわが法学部でも法曹界に進んだ先輩たちは少数派で、むしろ先輩達の多数派は民間企業や官公庁で活躍されています。すなわち、京都大学法学部は、法曹界のみならず、実業界や官界にも優れた人材を輩出してわが国社会に貢献をしてきたのであって、そのことがわが法学部の強みになってきたともいえます。  
 このようにわが法学部の卒業生の進路は様々ですが、それぞれの進路の先輩方にわが法学部の卒業生としてどのような人材を期待されているか、ということを伺いますと、実はその答は驚くほど共通しています。それは、未知の課題に遭遇したときに、自分の頭で考え、自ら判断し、解決策を提示することができる人です。法学部の授業では、どの科目でも一定量の知識の習得、平たくいえば覚えることが求められますが、覚えたことをそのまま吐き出すことを目的として知識の習得が求められるわけではありません。未知の課題に遭遇したときに、適切な解決策を考案するためのベースとして知識の習得が求められるのであって、大切なのはその知識をいかに活用して適切な解決策を導くかです。 また、法学や政治学のような社会科学の分野では、目の前にある課題を解決する方法が一つではなく複数存在する、しかもその複数の解は一見したところ、どれも同じ程度に正しそうに思える、ということがしばしば起こります。数学であれば解は一つですが、法学や政治学ではそうではないということです。簡単な例として裁判を思い浮かべてください。   判決が、地裁、高裁、最高裁と二転三転したり、最高裁でも裁判官の意見が割れて最終的に裁判官の多数決で決着するということは実際にもよくあることです。このように、物事の見方や課題の解決策が複数あり得ることを知ること、複数ありうる解決策の中から、最適と思われる解決策を選び出し、それを説得力を持って根拠付けること、根拠付けにあたっては理論的正当性、具体的妥当性、体系的整合性など種々の価値基準をバランスよく配慮すること、このようなトレーニングを皆さんはこの先法学部の学習において繰り返し行うことになります。このトレーニングが目指すところは、まさしく、未知の課題に遭遇したときに、自分の頭で考え、自ら判断することができる能力を涵養することです。もちろん、大学時代の数年間のトレーニングだけで各界で期待される人材が養成されるわけではありませんが、法学部での経験は、皆さんが社会に出て未知の問題に直面したときに、大きなよすがになってくれるはずです。  
 続いて、今お話ししたような法学部での勉学にあたって留意していただきたいことをいくつか申し述べます。  
 京都大学には自学自習の伝統があるとよく言われますが、自学自習とは自分一人だけで本を読み勉強することを意味するのではありません。教師から知識を授けられたことに満足するのではなく、それを基礎として主体的に学びを深めようとする態度が自学自習なのであって、学友との討論により学びを深めることは自学自習の教えからはむしろ強く推奨されるべきことといえます。そして、物事の見方や課題の解決法は一つではなく複数あり得るという法学・政治学の特徴からすると、自らが理解したところや思うところを他人にわかりやすく説明してその是非を問うたり、逆に他人の説明に対して疑問をぶつけて議論をするというトレーニングは法学部の学習において不可欠であるともいえます。他人との討論は、友人と食事をしたり酒を飲み交わしながらでもできますし、あるいは様々なサークル活動の中でもできるでしょう。しかし、トレーニングとしての効果の大きさを考えるならば、皆さんには、是非とも法学部が提供している少人数教育の場を活用していただきたいと思います。昨日の履修指導の際にも説明があったと思いますが、1回生後期には主として若い准教授の先生が指南役となる「法学部基礎演習」が教養科目として開講されますし、3回生・4回生では教授が指南役となる「演習(いわゆるゼミナール)」が専門科目として開講されます。これらの科目において、教員は学生の報告の足りないところを補うアドバイザーであることもあれば、学生同士の討論の交通整理役になることもあり、あるいは、皆さんの討論の相手方になることもありますが、授業の主役となることが期待されているのは学生の皆さんです。演習科目は、皆さんの力を大きく伸ばすことができる学びの場であり、積極的に取り組んでいただくことを切に希望します。  
 第二に、法学部の専門教育は、一言で言えば、法学・政治学の学習を通じて社会や人間の有り様を学ぶことにあるといえますが、その学びをより実りあるものとするために、法学部専門教育での学問以外の学問についても幅広く触れていただきたいと思います。将来自分が目指すのは実務法曹だからといって、法科大学院への進学や司法試験の合格に役立つ科目ばかりを選択するのはとてももったいないことです。全学共通教育を中心とする一般教養教育では、多様な学問分野について様々な授業を展開しています。これら他分野の学問にも目を向けていただきたいと思います。  
 ごあいさつの最後に、法学部に関係する二つの団体と、京都大学法学部の保護者会である法友会について、紹介をさせていただきます。  
まず、法学部に関係する団体として、法学会を紹介します。法学会は、法学部・法学研究科の教員、学生等を会員とする学術団体で、毎月、法学論叢という学術雑誌を刊行しています。教員や大学院生が論文を掲載しており、法学・政治学に関する最先端の議論をみることができます。また、春と秋の2回、学術講演会を開催しており、本学の教員が講演をいたします。この4月20日には春季の学術講演会が開催されますので、皆さんのご来聴をお待ちしております。皆さんが法学会に加入され、学術の発展をともに支える仲間となっていただけるよう、お願い申し上げます。  
次に、これも法学部に関係する団体である、有信会を紹介します。有信会は、法学部の学生、法科大学院生を含む法学研究科の大学院生、法学部や大学院の卒業生・修了生、そして、法学部・法学研究科の教員・元教員を構成員とする団体です。一言で言うと、在学生の親睦団体であると同時に、京都大学法学部の同窓会という性質も持ち合わせた団体です。大学内においては、主として、学生委員が中心となって活動しており、講演会、親睦旅行、卒業記念アルバムの作成等が行われています。本日はご来賓として、本学部OBで有信会副会長、有信会近畿支部長でもあられる村尾和俊NTT西日本代表取締役社長に入学式へのご参加を賜りました。また、本日夕刻に予定されている新入生歓迎会も有信会活動の一環ですが、この新入生歓迎会には、教員も多数参加するほか、法曹界・実業界・官界の各界で活躍される卒業後間もない先輩方も出席を予定されています。新入生の皆さんには、ぜひご参加いただき、教員・先輩方との歓談と交流の機会をもっていただきたいと思います。
 また、有信会は、さきほども申し上げましたように、法学部同窓会としての組織でもあり、学部生、大学院生が卒業して就職をした後の懇親と交流の場にもなっています。同期の学生の卒業後の交流、同じ職場内での同窓の先輩・後輩としての交流、就職先の各地域における地域ブロック内での交流、さらには、卒業後の法学部教員・名誉教授の方々との交流など、有信会は、在学時、さらに卒業後の歩みにとって欠くことのできない親睦団体です。まだご入会いただいてない新入生の皆さんには―そしてこれは本日ご出席の保護者の皆様に向けてのメッセージでもございますが―、卒業後の進路等将来を見据えて、是非、入会していただきますようお願いします。  
 最後に、法友会についても、紹介をさせていただきます。法友会は、法学部の在学生のご家族の皆様で組織されている団体です。1952年に「京都大学法学部父兄懇談会」として発足した歴史と伝統を有する団体です。法友会は、毎年、入学式後に懇談会を開催しており、この懇談会には、何人かの教員も出席し、教育課程や各種試験、また、その後の進路のことなどについて、意見交換をさせていただいております。また、法友会では、この懇談会での意見交換の内容や各種試験に関する情報など、ご家族の皆様に有意義な情報を掲載した会報を発行しています。加えて、法友会に入会していただいたご家族の皆様には、法学部学生を主たる対象として、春と秋に連続講演会方式で開催している企業特別講演会―これは学部学生の進路選択の参考となるよう各産業分野を代表する企業の人事担当者に来ていただいて講演をしていただくというものですが―この企業特別講演会を参観していただくことも可能です。その他の点も含め法友会のより詳しい活動の内容については、法友会ホームページをご参照いただければと思います。  
 先ほども申しましたように法学部は将来の進路が多様であり、進路が多様であるがゆえに、また、進路によっては司法試験や公務員試験といった試験が関わってくるがゆえに、進路選択に悩む人が少なくありません。法友会は、お子様が在学されている京都大学での法学・政治学教育の状況のみならず、将来の進路についても京都大学法学部の教員から直接に説明を受け、有益な情報を得ることができる場です。本日の段階で、既に多くの保護者様に入会をしていただいていますが、本日この場にご出席のご家族の皆様でまだ入会をされていない方々におかれましては、当日の入会手続も懇談会会場入口にてしておりますので、ご入会を賜れば、大変ありがたく存じます。
 以上で、私のあいさつを終わります。新入生の皆さんが京都大学法学部に入学されたということは、皆さんには高い学力があること、皆さんの将来にはその高い学力を生かすことができる様々な可能性が広がっていることを示すものです。しかし、その可能性を生かすかどうかは、皆さん次第です。皆さんが、京都大学法学部において研鑽を積み、これからの日本社会、国際社会で活躍される力を身につけられるよう、期待します。  
 本日は、ご入学、おめでとうございました。

2017年4月7日
                                                    京都大学法学部長  洲崎 博史